タングの種類とそれぞれの性質
ナイフを選ぶ際、そんなに大きくないのに、やけに重く感じるナイフがあった、という経験はありませんか?
もちろん、ブレードやハンドルの素材の違いなどもありますが、この多くはハンドル内部の構造がどうなっているかで決まっているのです。
先述の通り、ナイフの用途は、主にブレードの形状で決まります。そして、ハンドルの構造で強度や重さが変わってくるのです。この2つの組み合わせが、ナイフ選びに最も重要であるといっても過言ではありません。
そこで本章では、柄(ハンドル)の構造の種類から、どんな構造にどういった性質があるのかなどご紹介していきます。
主なタングの種類
主にシースナイフのブレードの後ろ側、ハンドル内部に隠れている鋼材のことを「タング」、日本語では「中子(なかご)」と呼びます。
通常はこのタングを左右から挟み込む、またはタングを包み込む形でハンドルの素材(ハンドル材)を取り付けることでハンドルが完成します。外に露出しているブレードの部分と、隠れているタングの大きさの比重によってカスタムナイフにはそれぞれ違いが生まれるのです。
タングにもブレード同様、様々な種類があり、それぞれに名称がついているので、代表的なものを紹介していきます。
フルタング
タングの形がハンドルと同じ形をしているのが特徴。両側からハンドル材で挟み込み、ピンやボルトなどで固定する方式で、鋼材の部分が大きくなるため、そのぶん頑丈になります。
ただし、鋼材の部分が大きくなるということは重量も重くなるということです。長時間の使用や長距離を持ち運ぶ場合は負担にならないよう、ナイフ自体の大きさを考えることをおすすめします。
もうひとつの欠点としては、両側からハンドル材で挟み込む構造上、上下に鋼材が剥き出しになってしまうところです。
錆びやすい鋼材を使っている場合は、定期的な手入れも必要になってしまうので、気をつけておきたいところですね。
フルタングの中には「フルテーパードタング」と呼ばれるタイプのタングもあり、こちらは後ろに向かうにつれてタングの側面が削られ、細くなっているものを指します。
これは、カスタムナイフ職人のロバート・ウォルドーフ・ラブレス氏によって考案されたもので、ブレードとの重量のバランスをとり、フルタングの頑丈さを残しつつ扱いやすくするためにこのような形になっています。
他にも、ハンドル材と比較してタングを長くとり、はみ出している部分をハンマーで叩いて使える設計にした「エクステンディッドタング」、軽量化のために鋼材の下半分を大胆に削った「ハーフタング」などの亜種があります。
ナロータング
ブレードと比較してタング部分が細くなっているものを指します。ハンドル材とタングは接着剤で接着したのち、ハンドルの後ろ側からネジ等で留めてハンドルを完成させます。
鋼材がフルタングと比較して小さくなるため、軽量になるのがメリットです。他にもハンドル材を掘って鋼材を差し込むため、鋼材が外部に露出せず、錆びに強いというところも利点になりますね。
ナロータングと同様にタング部分を細くとりつつ、フルタングのように左右からハンドル材で挟んでピンで固定する、「コンシールドタング」という方式もあります。フルタングと異なり、タングが細くなるため完全に鋼材を隠すことができ、錆びるという欠点が解消されているのが特徴です。
さて、カスタムナイフとは少し話が離れますが、実は日本刀の柄もコンシールドタングと同様の構造をしています。
海外からやってきた文化であるカスタムナイフと、日本の伝統的な日本刀が同じ構造をしているのは、まったくの偶然なのか、欠点を失くすために突き詰めていくとそうなるのか、いずれにせよ何だか不思議な縁を感じますよね。
スケルトンタング
タングの鋼材を部分的に切り取ったり削ったりして穴を開け、肉抜きをして骨格のような形状にしたものです。
鋼材部分が減らせば減らすほど軽量になりますが、丈夫さは犠牲になってしまうので、一長一短な構造です。依頼の内容や職人次第で、どのようなバランスになるか変わってくる構造であるともいえますね。
また、スケルトンタングは、フルタングと同様にハンドル材でタングを挟み込んでハンドルを完成させるほか、ハンドル材を使わない場合もあります。ハンドル材を使わない場合は、観賞用に向く、肉抜きがアーティスティックなデザインになっていることが多いのが特徴です。
ストラップを付けたり、コードを巻いてアクセントにしたりすることで、自分ならではのアレンジができるので、他の人と似たようなナイフを持ちたくないという方には特におすすめです。
フォローハンドル
サバイバルナイフによく使われているハンドル構造で、短いタングをハンドル部分に差し込み、わざとハンドル内部を空洞にすることで道具を入れられるようにしてあります。空洞になっていることから「パイプハンドル」ともいわれており、見た目通り強度はあまり高くありません。
バトニングや獲物の解体などで使い倒すよりも、ハンドル内部の道具と一緒に、もしものときに備えて携帯しておくような使い方が良いかもしれませんね。
本章では、タングについて、それぞれの性質を紹介しました。
ナイフの種類やブレードの形状のみならず、見えない部分がとても重要であるということがわかっていただけたでしょうか。
まとめると、強度を求めるならフルタング、軽さを求めるならナロータング、ある程度の強度と軽さを維持しつつデザイン性を求めるならスケルトンタング、もしものときのために小物を持ち運びたいという場合はフォローハンドルがおすすめとなります。
アウトドアの相棒として強度や重さなど実用性を追い求めるのも良いですが、スケルトンタングやフォローハンドルのような、デザインや機能性を重視したタングがあって、見映えまで考え出すと迷ってしまいますよね。
目に見えない部分に気を遣って扱いやすさを求めるか、目に見える部分に気を遣って芸術性を求めるか、それはまるでタングとブレードの比重のようでもあります。
続いての章が最後となるのですが、次章ではカスタムナイフメーカーとその歴史について紹介していきます。メーカーそれぞれの生い立ちや背景について気になる方は読んでみてください!