皆さんはナイフというとどのような形を思い浮かべますか。
映画『ランボー』で登場したような大ぶりなボウイナイフでしょうか。
ご家庭の台所で果物の皮を剥いたりする可愛らしいペティナイフでしょうか。
私にとっての【ナイフ】は、この形をしています。
BUCK #110 フォールディングハンター
ナイフマニアでない方も、どこかで目にした記憶のあるナイフかと思います。
時は西暦1964年。
場所はアメリカ サンディエゴで1本のフォールディングナイフが発表されました。
BUCK社が開発した#110 フォールディングハンターです。
この#110は【ロックバック】という刃を固定する機構を備えており、頑強さ、信頼性などでそれまでのフォールディングナイフとは一線を画していました。今では見飽きた感すら漂うクラシカルな外観ですが、当時はさぞ鮮烈に見えたことでしょう。
現在もキャンプシーンでお馴染みのオピネルナイフなどは1964年以前より人気のあるナイフですが、#110はロック機構の頑強さという点で桁違いでした。
折り畳まれた状態から刃を展開した際の「ガチンッ」というロック音の頼もしさは今でも褪せることはありません。『勝手にロックが外れて手を切ってしまう』『刃のガタツキのせいで手元が狂う』というフォールディングナイフの悩みを過去のものとした功績は偉大です。
以前私が私物の#110を少々ラフに扱ったところ、ロック機構や基部が破損するより先に刃が折れました。
フォールディングハンターという名の示す通り柔らかい肉を切るような用途に特化した繊細なホローグラインドが施されていますので、堅い物を削ることは不得意で、ましてやバトニングなんて絶対にしてはいけません。刃が折れますよ。
そんな繊細な刃とは打って変わって重厚なハンドルです。真鍮で作られているボルスターは、ピカールで磨いてあります。
個人的には古びた真鍮の鈍い輝きも好みなのですが(もはや輝いていないレベルでも)、今回は余所行きということで磨いてみました。
次は新旧フォールディングナイフの比較です。
現代ナイフの代表には手近にあった、みんな大好きベンチメイド社バグアウトを選出しました。
【BENCHMADE BUGOUT】
全長:187mm
刃長:82mm
刃厚:2.3mm
重量:51g
ブレード鋼材:CPM-S30V
ハンドル材:CF-Elit
【BUCK Knives #110 FOLDING HUNTER】
全長:220mm
刃長:95mm
刃厚:3.0mm
重量:200g
ブレード鋼材:420HCステンレス
ハンドル材:縞黒檀、真鍮
全長や刃長は110の方が一回り大きいですね。
同材質であれば刃厚 2.3mmか3.0mmかという0.7mmの差は大きなものですが、バグアウトにはS30Vという高級鋼材が使われていますので、特性が大きく異なり、単純に比較はできないでしょう。
バグアウトのブレードは硬質なステンレス鋼で、鋭い切れ味を永く維持でき、110はほんの少し柔らかめのステンレス鋼で研ぎやすさや靭性を確保しているイメージでしょうか。
私は110のブレードを折りましたが、それはフォールディングナイフらしからぬ堅牢さから、(少しくらい手荒に扱っても大丈夫なのではないか)という意識が生まれたからだと思います。
バグアウトを手にしている時はまず薪を割ろうという発想は生まれません。
そんな110の堅牢さを物語るのがこのブ厚いグリップです。
バグアウトと比べてなんと重厚で頼りがいのあるハンドルでしょうか。
バグアウトの厚さ 9mmに対し、110は厚さ 14mmもあります。
110がバグアウトのおよそ4倍もの重量がある理由の大半はこのハンドルにあります。
携行性など考えていないとすら思えるほどのサイズ感から生み出される圧倒的頼もしさが、全世界でコピーされるようになる要因の一つであることは明らかです。
さて、いかがでしょうか。
個人的な主観ばかりとなりましたが、BUCK #110というナイフについて、
「こんな考え方している人もいるのだな」と思っていただけましたでしょうか。
今回は110を讃頌しました(褒め称えたつもりです)が、バグアウトも素晴らしいナイフです。
ブレードには高級鋼材を奢り、軽く劣化しにくく強度も高いハンドル材、利き手を選ばず簡単にオープンすることが出来るロックと良いこと尽くしです。
私も普段の生活に使用するのであれば間違いなくバグアウトを選びます。
しかし、一泊だけのキャンプや自宅でサラミ、チーズをカットする場面では110を選びます。
時してロマンと実用性は反比例する。
そう思う今日この頃です。
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